引きこもりと自己愛性パーソナリティ障害

人格障害の中の1つに自己愛性パーソナリティ障害があります。長期の引きこもりの場合にうつ病と一緒に診断されることも多いと思います。

引きこもりと聞くと根暗な性格の人や、偏屈な性格の人で、他人と関わりを持ちたくないから部屋から1歩も出ない人をイメージされると思いますが、以前にブログでも書きましたが最近の引きこもり傾向は少し違います。

最近の引きこもり傾向は、働きに行くことはせず部屋に引きこもってはいるが、完全に引きこもっている訳ではなくて、夜遅くにコンビニエンスストアに買い物やゲームの課金に行くことはできるなどの外に出られる人でも引きこもりに含まれます。

買い物が大好きで、親から貰うお小遣いで通販サイトで好きなものを買い、家から出なくても最新のオンラインゲームを楽しんでいるゲーム依存症の人もいます。

親からすれば「毎日毎日寝る間も惜しんでゲームをする体力があるのならアルバイトでもいいから仕事に行ってくれれば良いのに」と嘆きたくなる気持ちも分かります。

引きこもりの子どもは、親から見れば何も感じていないような顔をしているかもしれませんが、本人は痛いほど「このままじゃいけない」と思い続けています。

引きこもりで自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分の理想像が高すぎてしまい、受験や就職試験の失敗などで自分が傷つくのを恐れて、何にもチャレンジできない心境なのです。

職場でうまくいかないことがあると、転職先が決まる前に退職してしまうので再就職が難しく、無職になった自分への周囲からの視線に対していたたまれず「クリエイティブな仕事でなければ俺の仕事じゃない!」といって就活をやめて自宅に引きこもってしまう例もあります。

引きこもりの人は自分に自信がないのにプライドが高いので、「オープンテラスのお洒落なカフェでパソコンを開きながらコーヒー片手に数百万円を動かすような仕事」にあこがれを持っている人が多いです。

引きこもりで自己愛性パーソナリティ障害の人はとてもプライドが、高く自分は特別な人間だと思いたいのです。理想は高いが努力はしたくない。努力はしたくないが承認欲求はとても高い。矛盾だらけです。

プライドというものは、とても大切なものです。ですがプライドがあまりにも高すぎると、友達や職場の人とバランスが取れなくなってしまうのです。

しかし自己愛性パーソナリティ障害のように自己愛が強いのは、悪いことばかりではありません。自己愛が強い人は自分を守ろうとする意識が高いので自殺を選択することが少ないのです。

人間は自己愛がないと生きられないので、うつ病などの精神疾患を患った場合に自己愛の欠乏から自殺してしまうのです。

自己愛があるおかげで自殺の心配からは逃れられるので、親が常に引きこもりの子どもの監視をする必要がありません。親が仕事に行けることは、経済面でも精神面でも大変助かります。

健康で自分のことが好きな人は、何事にも前向きでチャレンジジャーです。友達を作り、恋愛を楽しみ、スポーツや勉強などに挑戦します。

ところが引きこもりで自己愛性パーソナリティ障害の人は、就職試験の失敗などで自分が傷つくのを恐れて、何にもチャレンジできない心境なので自己肯定感がありません。

自信は自分への肯定感です。自信は成功体験、社会的地位、学歴などの中に見出せるものですが、引きこもりの人は対人関係の交わりがないので自信が持てないのです。

自分に自信が持てないと「自分には存在価値がない」とか「自分は生きていていいのだろうか?」などの不安が出てきます。

親から見ると、引きこもりの子どもの将来の生活の不安は、居住や食事などの経済的面さえ支えられば大丈夫だと思いがちですが、本人に生きたいという欲求がないと上手くいきません。

引きこもることでゲーム三昧の生活ができて、働かなくてもお小遣いが貰えて、自由になる時間が永遠に手に入ったとしても、人間には「生きがい」が無いと生きていけないのです。

それでは引きこもりの子どもをこれからどうしたら良いのかというと、今よりももっと自己愛を高めて貰うのがベストです。「自分は自分である」という感覚が自己愛です。

引きこもりは対人関係の交わりがないから自信が持てないので、対人関係を作り出すのです。それにはコミュニティに参加して他者の声を聴くことがお勧めです。

他者の成功体験を聴いたり会話することで、こうしたい、こうなりたいという欲求が生まれます。引きこもっている子どもにいきなりコミュニティに参加させるのが難しかったら、まずはお母さんが心理カウンセリングやグループセミナーなどに参加しても良いでしょう。

お子さんに外の世界に目を向けてほしかったら、まずはお母さんが行動を起こすことが先決です。そしてコミュニティで得た情報を日常生活の中で何気なくお子さんに話してください。

例えばお母さんが聞いてきた「旅行で飛行機に乗った人の感動の体験」の話をしたら、その話を聞いたお子さんが、1度でいいから飛行機に乗ってみたいと思うかも知れません。そんな小さなきっかけでもお子さんの刺激になるのです。

成功体験などの生きた情報がお子さんが行きたい、やってみたいという欲求を持ってくれるかも知れないからです。お子さんに引きこもりを克服してほしかったら欲求を持たせることです。

お子さんに芽生えた飛行機に乗ってみたい、1人旅をしてみたい、外国に行ってみたいという欲求は、お母さんが「そろそろバイトにでも行ってみたら?」という言葉より100倍も効果的です。

引きこもりが1回で治る「神の言葉」のような劇的な治療効果は期待しないほうが良いです。心理カウンセリングでも「何気なく元気になっていつの間にか働きに出ていた」などの本人に分からないくらいのゆっくり治療がベストです。